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藻が湖十一面観音

2022  流木
みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2022  出展

この作品は山形ビエンナーレ内の企画「現代山形考 藻が湖伝説」を
モチーフに制作しました。

無かったかもしれない。
けど、在ったかもしれない。
切れかけた赤い糸のような心もとない距離感で、藻が湖伝説は佇んでいる。
伝説とはその土地の未来に託された夢の遺産であり、
人々が生きていく為に必要な舞台装置だ。
その夢が一巡しようとしている今、夢を一度「みとる」必要があると感じた。
「みとる」とは、これまでの縁を己の内に内在化させて共生し、次なる未来へ進む儀式だ。
空に光の点があれば繋いで星座にするように、
陸に大きな穴があれば水で満たすことを、人は自ずと夢想する。
そのプリミティブな夢に少しでも近付くために、仏像の材は山形の流木から採ることにした。
最上川の源流近くに造られた白川ダム。現代山形の人工湖から流木を頂いた。
採りに行った日は折しも山形に記録的豪雨が降った直後で、最上川が氾濫し、藻が湖伝説を追体験する思いだった。土地の伝説に迫ろうとする自分に対する、神様の手荒い歓迎にも思えた。
この流木仏もいずれ沈む運命にある。
一瞬だけ気まぐれに掬いあげられた巡りあわせの中に、永遠をみたい。