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生木仏

2018  桐


2018 年当時、都内の銭湯は週に1 軒のペースで廃業していました。国立市の銭湯
も全て潰れて残り一軒となった際に、「国立ポッポプロジェクト」と称して国立最後の銭湯「鳩の湯」を存続させる活動を企画しました。
プロジェクトのスピンオフとして彫った作品です。

裏口から訪れるお客さんにも見えるように表裏二面の顔を彫っています。
銭湯の軒先に桐の大木がありました。桐の木は成長が早いので、昔の日本には娘が生まれたら庭に桐を植える(嫁ぐ時に嫁入り道具として桐箪笥を拵える為)という風習がありました。
鳩の湯にもそのような物語があったのでしょう。
手入れが面倒という理由で伐採を考えているという話を鳩の湯のご主人から聞いた時、「伐るならその前に彫らせてほしい」と頼みました。

彫り始めると、お客さんから「気持ち悪い」「木が可哀相」という声が出てきました。日本人の樹木や自然への染みついた信仰を実感した出来事です 。
それでも完成すると皆さんからは好評で、木を伐採しないで欲しいという声が増えたことで桐の木はその命を少しだけ長く繋げることができました。

ノミの刃を 打ち込むたびに樹液のしぶきが顔に飛び散り、まるで 血を浴びるようでした。傷付けることで生かすという彫刻の本質を体感で教えてもらえた作品です。